日本人の食生活

農林水産省食品総合研究所所長
鈴木 建夫
日本人ほどの雑食民族はいないらしい。3大栄養素で、たんぱく質2.4トン、脂質1.7トン、そして炭水化物8.7トンと換算できる。含まれる水分や飲料60トンを考えると、日本人一人あたりの食素材は約70トン以上にもなる。一生の間にこれだけの食べ物が身体を通過するのであるから、いい加減な食事をしていたのでは進退に良いわけがない。更に加えれば、我が国の死亡原因を見ると、事故・自殺の25%、肺炎・気管支炎・エイズなどの感染症10%をはるかに超えて、ガン、心臓疾患、脳血管障害の3大死因(61.6%)を含む生活習慣病が約65%を占めている。

最近、これら生活習慣病は食事に起因するところが多く、諸悪の根元は活性酸素によるとの説が大勢を占めている。脂質の一部と一生の間に消費する18トンの酸素の一部が結合して過酸化脂質や活性酸素を生育する。この活性酸素は、体内に入ってきた外敵に対して攻撃する、いわば鉄砲の弾の役割も持っているが、最近の飽食化、グルメ嗜好の中で脂質の過剰摂取から、過剰の活性酸素の生成が問題となっている。過剰の活性酸素は、人体を構成する60兆個もの細胞の壁を傷つけたり、それぞれの細胞の中に入っている2メートルもの遺伝子を傷つけて、生活習慣病を引き起こす原因となっている。欧米型の食生活が脂質の過剰摂取を引き起こし、生活習慣病の増加の原因となったと結論できよう。日本型食生活の基本を再考すると、米などの穀類を中心とした食素材の豊富さが指摘される。欧米の食素材は約2,000種類とされ、雑食民族であるアジア人は約10,000種類の食材を利用し、中でも鮮度志向の強い日本人は約12,000種類の食材を用いている。
特に主食に位置づける穀類については、そばが重要な位置を占めてきた。江戸時代の麺打ち技術の開発で日本独自の文化になり、人口が約5,000万人であった大正5年のそばの生産量と、現在1億2,000万人の人口での消費量約14万トンがほぼ同量であることを考えると、日本人がそばを如何に粗末に扱ったかがわかる。最近になって、そばは機能性食品としても優れた形質を持っていることが、種々の研究から明らかになってきた。
そばの最大の欠点は作物としての扱いが難しいこと、即ち、米のように落果せず収穫できないことがまず挙げられる。次に製粉技術の難しいことが上げられる。タデかであることから当然であるが、米や麦のように胚芽部分と可食部分である胚乳の部分が分かれておらず、合目的的な製粉は極めて難しい。
菌数の多いことも障害となっている。そば粉の菌数は小麦粉と比較して100〜1,000も多いとされる。これがそば粉の品質低下の一因となっているようである。加熱による殺菌を工夫して、そば独自の風味を維持しようとする試みも数多くある。しかしながら、本質的には風味を損ねると考えられ、最近開発されたソフトエレクトロン殺菌による方法などが、限局された部位の殺菌に有効と考えられる。
サイトへ 戻る